コピー機屋さんのチョコレートテリーヌ

おやつと人

ある日、机の上に置かれたテリーヌ

今から8年ほど前、まだコロナ過より前のことです。

10時の休憩時間だったと思います。

ちょうどコピー機屋さんのおじさんが会社に来ていました。

コピー機のメンテナンスを始める前に仲の良い事務員さんと何やら楽しそうに話をしていて、いつもより賑やかでした。

それからしばらくして、事務員さんが僕の机に白いお皿を置いていきました。

「どうぞ」

お皿の上には、チョコレートテリーヌと抹茶テリーヌが並んでいました。

「コピー機屋さんのおじさんが作ってくれたそうですよ」

えっ?まさかコピー機のメンテナンスをしているおじさんが、チョコレートテリーヌを作るとは思ってもみませんでした。

当時の僕にとっては、テリーヌはあまり馴染みのないスイーツでした。

もしかすると、食べるのもその時が初めてだった気がしています。

そんなことを思いながら、チョコレートテリーヌをいただいてみることにしました。

うん!滑らかでちょうど良い甘さ、とても美味しかったことを今でも覚えています。

コピー機のメンテナンスが終わったころ、

「お店みたいな味でとても美味しかったです」

そんな感想を伝えたような気がします。

その時は、おいしいテリーヌをいただいたというだけの何気ない10時のおやつ時間でした。

それ以上おじさんと話が広がることはありませんでしたが、今でもよく覚えているおやつ時間です。

お店みたいな味でした

「お店みたいな味でとても美味しかったです」

すると、コピー機屋さんのおじさんは嬉しそうにしていたことを覚えています。

当時の僕は、

「すごいなぁ」

「お菓子作りがすきなんだなぁ」

そんなことを思ったくらいでした。

今ほど手作りのお菓子に興味があったわけではなく、おいしいテリーヌをいただいたというだけの出来事でした。

だけどその時は、まさかあのテリーヌを思い出す日が来るとは夢にも思っていませんでした。

それから5年ほど経って

それから5年ほど経った頃のことです。

愛する女性とお菓子の材料屋さんに足を運んだことがありました。

店内には、チョコレートや型、粉など、色とりどりの材料やキットが並んでいます。

それまでお菓子作りとはほとんど縁がなかった僕は、店内に入った瞬間から完全に迷子状態。

何が何だか分からず、ただ店内をウロウロするばかりでした。

一方、彼女は慣れた様子で商品を手に取りながら楽しそうに店内を見て回っています。

その姿を横目に、僕はただ後ろをついて歩いていました。

そんな中で、彼女からこんな提案をされました。

「今度のバレンタイン、手作りお菓子を交換しませんか?」

少し意外なお誘いでしたが、せっかくなので挑戦してみることにしました。

「さて、何を作ろうか。」

そんなことを考えながら、店内を見て回っていた時のことです。

コピー機屋さんのテリーヌだ!

しばらく店内を見て回っていると、チョコレートテリーヌのキットが目に入りました。

その瞬間、会社の10時の休憩時間にいただいたあのテリーヌのことを思い出したのです。

「あ、コピー機屋さんのテリーヌだ!」

そんなことを思ったのを今でも鮮明に覚えています。

ちょうど良い甘さでお店みたいにおいしかったこと。

コピー機のメンテナンスが終わった頃、

「お店みたいな味で美味しかったです。」

と伝えたこと。

そして、嬉しそうにしていたコピー機屋さんのおじさんのこと。

いろいろなことを思い出しながら、

「せっかくならチョコレートテリーヌを作ってみよう。」

そう思い、キットを手に取りました。

1回目は失敗でした

こうして、初めてチョコレートテリーヌ作りに挑戦することになりました。

お菓子作りはほとんど経験がありません。

もちろん、テリーヌを作るのも初めてです。

キットがあるとはいえ思っていたより簡単ではありませんでした。

お店でキットを手に取った時は、ここまで苦戦するとは思っていなかったことを覚えています。

最初の挑戦は、思うような仕上がりにはなりませんでした。

そこで、チョコレートテリーヌについてネットで調べながらもう一度挑戦することにしました。

2回目でなんとか形になり、

3回目に作った時、ようやくバレンタインのお菓子として渡すことができました。

自分で作ってみて初めて分かったことがあります。

チョコレートテリーヌ作りは、思っていた以上に奥が深いということでした。

だからこそ、会社の10時の休憩時間にいただいた、あのテリーヌのことを改めて思い出していました。

あの日のテリーヌ

自分でチョコレートテリーヌを作ってみて、初めて気づいたことがありました。

「あの時のコピー機屋さんのテリーヌの方がおいしかった。」

もちろん、思い出補正もあるのかもしれません。

それでも、あのちょうど良い甘さやお店のような完成度にはなかなか近づけませんでした。

だからこそ、ふと思うことがあります。

「どうやって作ったんだろう」

「レシピを聞いておけばよかったな」

あの頃はまだおいしいテリーヌをいただいたというだけで満足していました。

まさか数年後、自分でテリーヌを作ることになるなんて夢にも思っていなかったからです。

だから、あの時はそれでよかったのだと思います。

そして今でも、チョコレートテリーヌを作るたびに、会社の10時の休憩時間と白いお皿に並んでいたコピー機屋さんのテリーヌを思い出します。

何気ない10時のおやつ時間でしたが、今思えば8年前に会社でいただいたテリーヌが3年後のお菓子作りにつながっていきました。

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